東京高等裁判所 昭和48年(ネ)427号 判決 1975年9月04日
控訴人 (旧商号)常陸不動産株式会社 上田砂利産業株式会社
右代表者代表取締役 宇田吉郎
右訴訟代理人弁護士 木島英一
被控訴人 金子昌夫
右訴訟代理人弁護士 中野公夫
右訴訟復代理人弁護士 青木至
同 星野タカ
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
二、当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の提出・援用・認否は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
(控訴代理人の主張)
(一) 本件土地(原判決別紙物件目録記載の土地)は、被控訴人の父金子政夫が、昭和三四年一二月一日の競落許可決定により、被控訴人名義で競落取得したものであるが、右政夫は、競落前の同年一一月三〇日に本件土地の競買に使用するとの理由で控訴人から金一〇万円の貸付を受け、かつ、本件土地を競落取得したときは控訴人のため右土地に抵当権を設定する旨約していたものであって、かかる経緯に照らすと、本件土地の真実の所有者は金子政夫であることが明らかであり、被控訴人の名義は、他の債権者からの差押を妨げるための偽装工作として使用されたものにほかならない(控訴人が、原審において本件土地が被控訴人の所有に属することを認めたのは、真実に反しかつ錯誤によるものであるから取り消す。)。
したがって、昭和三五年一〇月四日に金子政夫夫婦が形式上被控訴人の法定代理人たる資格で控訴人との間に締結した本件土地に対する根抵当権設定契約が利益相反行為となるいわれはない。
(二) 仮に本件土地の所有者が被控訴人であるとしても、右根抵当権設定登記の申請及びこれに基づく設定登記は被控訴人を債務者としてなされているから、右根抵当権の設定は、物件所有者自身の債務のためになされたものとして、利益相反行為にはならない。けだし、利益相反行為に該るか否かは、行為自体を外形的客観的に考察して決すべきもので、抵当権設定による借受金の使途に関する親権者の意図のごときは、右の問題には関係がないからである。
(被控訴代理人の主張)
(一) 本件土地の所有者が金子政夫である旨の控訴人の主張(一)は否認する。右土地の所有者は被控訴人であり、この点に関する控訴人の自白の撤回には異議がある。
(二) 控訴人の主張(二)は争う。
(証拠関係)≪省略≫
理由
当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、左に付加するほか、原判決の説示する理由と同一であるから、これをここに引用する。
控訴人は、当審において本件土地の所有者が被控訴人であることを争い、その所有者は被控訴人の父金子政夫であると主張する。しかし、本件土地が昭和三四年一二月一日の競落許可決定により被控訴人の所有名義になったものであることは控訴人も認めるところであり、≪証拠省略≫を総合すると、右土地については、当時未成年者であった被控訴人の父政夫が、共同親権者であった母しんの同意を得たうえで、被控訴人の法定代理人たる資格において競売裁判所に対してなした競買申出に基づき、被控訴人を競落人とする前記競落許可決定がなされるに至ったものであることが認められ、右認定を覆すべき証拠はない。したがって、右競落によって本件土地の所有権を取得したものが被控訴人であることは明らかであって、これと異なり、政夫が所有者であることを前提とする控訴人の主張は、採用の限りでない。
次に控訴人は、本件土地に対する根抵当権設定登記の申請及びそれに基づく設定登記はいずれも抵当物件の所有名義人である被控訴人を債務者としてなされているから、外形的客観的にみる限り利益相反行為にはならない旨主張する。しかし、利益相反行為に該当するか否かは、もっぱらその行為自体につき外形的客観的立場から決せられるべきものであるが、ここにいう外形的客観的判断とは、行為の相手方に不測の損害を及ぼすことを避け、法律関係の安定をはかるため、行為に当たった親権者の主観的意図・動機等を問うことなく、行為による親権者の利益と未成年の子の不利益とが当該行為を通して外形的客観的に結びつく関係にあるか否かによって判断すべきことをいう趣旨であって、当該行為自体の内容を登記申請書や登記簿あるいは契約等の記載のみによって形式的に確定すべきことを意味するものではない。本件においては、根抵当権によって担保されるべき控訴人の債権の債務者が金子政夫であることについては当事者間に争いがなく、右根抵当権設定登記上被控訴人が債務者とされているのは申請時の錯誤によるものであるとして、被控訴人に対してその更正登記手続を求める控訴人からの訴訟が当審に係属中であることは、当裁判所に顕著な事実であるから、利益相反性の有無は、当然、政夫の債務のための担保設定行為たることを前提として、客観的観点から決せられなければならないことは明らかである。その結果、本件根抵当権設定行為が親権者政夫と被控訴人との間の利益相反行為に該当することを免れないことは、原判決の判示するとおりである。
してみれば、被控訴人の本訴請求は正当であり、これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。よって、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条・第八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 横山長 深田源次)